「不動産営業って、なんだか電話がしつこそう…」「一度問い合わせたら、何度も訪問してきそう…」。そんなイメージから、この業界に少しだけ壁を感じてしまっている方も、いらっしゃるのではないでしょうか。お気持ち、とてもよく分かります。確かに、過去にはそうした積極的すぎる営業スタイルがあったことも事実です。
でも、時代は大きく変わりました。こんにちは。私は以前、大手不動産会社で営業として働き、現在は広報として350人以上もの営業の方々を取材しています。そんな私の目から見て、今の不動産業界で本当に成功し、お客様から愛されているのは、「しつこく」売る人ではなく、お客様から深く「信頼」される人なんです。
この記事では、なぜ「しつこい」というイメージが生まれてしまったのか、そして「しつこい」と「熱心」の決定的な違いは何か、どうすればお客様から「ぜひ、あなたにお願いしたい」と言っていただけるような信頼関係を築けるのか、そのための具体的な方法を、一つひとつ丁寧にお話ししていきますね。
この記事でお伝えしたいこと
- なぜ不動産営業は「しつこい」と思われてしまうのか、その本当の理由
- 「しつこい」と「熱心」を分ける、たった一つの視点の違い
- お客様から絶大な信頼を得るための、5つの具体的なスキル
- 「しつこい営業」をさせない、優良な会社を見抜くためのポイント
- これからの時代に求められる、新しい不動産営業のあり方

なぜ「不動産 営業はしつこい」というイメージが生まれたのか?
まずはじめに、この根強い「しつこい」というイメージが、どうして生まれてしまったのか、その背景からご説明させてください。理由を知ることで、このイメージが不動産業界の全てではない、ということがきっとお分かりいただけると思います。
理由1:成果主義がもたらす過度なプレッシャー
不動産業界の多くは、個人の成績が給与や評価に直結する「成果主義」です。毎月の契約件数などの目標、いわゆる「ノルマ」が設定されていることがほとんどなんですね。
この仕組み自体は、頑張った人が正当に評価されるという素晴らしい面を持っています。しかし、そのプレッシャーから、一部の営業担当者が、お客様の都合や気持ちを考える余裕をなくし、自分の成績のために、強引なアプローチをしてしまった、という悲しい現実がありました。
「今月、あと1件契約しないと…!」という焦りが、お客様には「しつこい」と感じられる行動につながってしまったんですね。
理由2:昔ながらの「プッシュ型営業」のなごり
今のように、誰もがスマートフォンで簡単に情報を得られる時代になる前は、物件の情報は不動産会社が独占していました。お客様は、不動産会社に行かなければ、どんな物件が売りに出ているのか知ることすら難しかったんです。
そのため、営業のスタイルも、会社側からお客様に積極的に働きかける「プッシュ型」が主流でした。電話をかけたり、ご自宅を訪問したりして、営業が主導権を握って話を進めていく。この昔ながらの営業スタイルが、今も「しつこい」というイメージの源流になっている部分があるんです。
理由3:一部の悪質な業者が与える業界全体の印象
残念なことですが、どの業界にも、ルールを守らない一部の人が存在します。不動産業界も例外ではありません。お客様を騙すような説明をしたり、断っているのに居座って契約を迫ったりするような、ごく一部の悪質な業者の存在が、ニュースなどで報じられることがあります。
こうした一部の不誠実な人たちの行動が、業界全体のイメージを大きく損なってしまっている、という側面も否定できません。ほとんどの営業は、お客様のために真面目に働いているのですが、悪いニュースほど人の記憶に残りやすいものですよね。
「しつこい」と「熱心」を分ける、たった一つの決定的な違い
「でも、お客様に積極的にアプローチしないと、契約なんて取れないんじゃないの?」そう思われるかもしれません。ええ、もちろん、お客様からのご連絡をただ待っているだけでは、お仕事になりません。大切なのは、そのアプローチがお客様にとって「しつこい迷惑」になるか、「ありがたい熱心さ」になるか、その境界線を正しく理解することなんです。
その違いは、驚くほどシンプルです。それは、営業の視点が「自分」に向いているか、それとも「お客様」に向いているか、ただそれだけなんですよ。
視点は「自分本位」か「お客様本位」か
「しつこい」営業は、常に自分本位です。「私が売りたい」「私がノルマを達成したい」「私が話したい」。すべての行動の主語が「私」になっています。だから、お客様の気持ちやタイミングを無視して、自分のペースで話を進めようとします。
一方で、「熱心」な営業は、常にお客様本位です。「お客様のお役に立ちたい」「お客様に喜んでほしい」「お客様に最高の選択をしてほしい」。行動の主語は、いつも「お客様」です。だから、お客様の言葉にじっくりと耳を傾け、お客様のペースに合わせて、最適な情報を提供しようと努めます。
この違いを、もう少し具体的に見てみましょう。
しつこい営業 | 熱心な(信頼される)営業 | |
---|---|---|
視点 | 自分本位(売りたい、ノルマ達成) | お客様本位(役に立ちたい、喜んでほしい) |
会話の主語 | 「私がお勧めするのは…」 「弊社では…」 | 「お客様がお探しの条件ですと…」 「お客様にとってのメリットは…」 |
連絡のタイミング | 自分の都合で、一方的に何度も | お客様の都合を確認し、合意の上で |
提供する情報 | 物件のメリットや、売りたい商品の話ばかり | メリット・デメリットの両方、地域の情報、 税金やローンなど、お客様の不安を解消する情報 |
ゴール | 契約を取ること | お客様の満足と、その先の幸せな暮らし |
いかがでしょうか。行動は似ていても、その根底にある「想い」が全く違うことがお分かりいただけるかと思います。このお客様を想う気持ちが、言葉の端々や行動の節々に表れ、お客様に「信頼」として伝わっていくんです。

しつこい営業はNG!信頼される不動産営業になるための5つの秘訣
では、具体的にどうすれば、お客様から「この人なら信頼できる」と思っていただけるような、しつこくない、でも熱心な営業になれるのでしょうか。私がこれまで取材してきたトップセールスの方々に共通していた、5つの秘訣をご紹介しますね。これは、不動産業界だけでなく、あらゆる対人関係で役立つ、大切な考え方でもあります。
秘訣1:売り込む前に「聞く」プロになる(傾聴力)
信頼される営業は、自分から話す前に、まずお客様の話を徹底的に聞きます。多くのお客様は、最初から自分の本当の希望をすべて話してくれるわけではありません。言葉の端々や、何気ない会話の中に、本当の悩みや願望が隠れているものなんです。
「なぜ、このエリアでお探しなのですか?」「今のお住まいで、どんな点にご不満がありますか?」といった質問を通じて、お客様自身も気づいていないような、潜在的なニーズを掘り起こしていく。この「聞く」という行為こそが、最適な提案をするための、最も重要な第一歩なんです。
人は、自分の話を真剣に聞いてくれる人を、信頼するものです。物件の知識を披露する前に、まずはお客様という一人の人間を理解しようと努める。その姿勢が、信頼の土台を築きます。
秘訣2:ただの物知りではない「価値ある情報」の提供者になる
インターネットが普及した今、物件の基本的な情報(間取りや価格など)は、お客様自身でも簡単に入手できます。これからの営業に求められるのは、ネットには載っていない、そのお客様にとって「価値のある情報」を提供することです。
- ポジティブな情報:近隣の美味しいパン屋さん、子供が安心して遊べる公園、地域のイベント情報など、その街での楽しい暮らしをイメージさせる情報。
- ネガティブな情報:物件のメリットだけでなく、「この道は朝、少し渋滞しますよ」「このマンションは西日が強いかもしれません」といったデメリットも、正直に伝える。
- 専門的な情報:お客様の年収や家族構成に合わせた、最適な住宅ローンの組み方や、将来の税金に関するアドバイスなど。
こうしたお客様一人ひとりに合わせてカスタマイズされた情報を提供することで、あなたは「ただの営業」から、「頼れる専門家」へと変わることができます。
秘訣3:心地よい関係を築く「距離感コントロール術」
「しつこい」と思われてしまう最大の原因は、連絡のタイミングと頻度です。信頼される営業は、この距離感のコントロールが非常に上手です。
その秘訣は、次に連絡するタイミングを、必ずお客様と「約束」しておくことなんです。例えば、こんな風に。
「本日はありがとうございました。次にご連絡させていただくのは、〇〇様のご希望に近い物件が出た時と、来週の住宅ローンの事前審査の結果が出た時の、2回にさせていただけますでしょうか?」「来週の水曜日あたりに、一度状況をご報告のお電話をしてもよろしいですか?」
このように、連絡の主導権をお客様にお渡しするんです。そうすれば、お客様は「いつ電話がかかってくるんだろう…」と身構える必要がなくなりますし、営業からの連絡を「約束通りの報告」として、安心して受け取ることができます。この小さな配慮が、大きな信頼につながるんですよ。
秘訣4:「物件」ではなく「未来の暮らし」を提案する
お客様が本当に買いたいのは、家という「モノ」ではありません。その家で送る「幸せな未来の暮らし」です。信頼される営業は、そのことを深く理解しています。
だから、ただ物件のスペックを説明するだけでなく、「この広いリビングなら、お友達を呼んでホームパーティーができますね」「この書斎なら、リモートワークも集中できそうですね」というように、お客様がその家でどんな素敵な時間を過ごせるのかを、具体的にイメージさせてあげるのです。
お客様のライフプランや将来の夢までお伺いし、それに寄り添った提案をする。そんなコンサルタントのような視点を持つことで、お客様にとってあなたは、不動産の営業担当者という枠を超えた、人生のパートナーのような存在になれるんです。
秘訣5:すべてを支える土台となる「絶対的な誠実さ」
最後に、そして最も大切なのが、この「誠実さ」です。どんなに優れたスキルを持っていても、その根底に誠実さがなければ、信頼関係は砂上の楼閣のように、もろく崩れ去ってしまいます。
お客様にとって不利益になるかもしれない情報を隠したり、契約を急がせるために事実を誇張したりしない。どんな時も、お客様の利益を第一に考え、正直であることを貫く。たとえ、その正直さのせいで目の前の契約を逃すことになったとしても、です。
その誠実な姿勢は、必ずお客様に伝わります。そして、「この人は、本当に私たちのことを考えてくれている」という深い信頼につながり、結果として、別のお客様をご紹介いただけたり、長いお付き合いになったりと、より大きな成果として返ってくるものなんです。
転職で成功するために。「しつこい営業」をさせない会社を見抜く方法
ここまでお話ししてきたような「信頼される営業」になりたい、と思ってくださった方も、もし入社した会社が「とにかく数字!しつこくてもいいから売ってこい!」という方針だったら、理想を実現するのは難しいかもしれません。だからこそ、転職活動の段階で、社員を大切にし、顧客志向が根付いている会社を見抜くことが、何よりも重要になります。
ポイント1:会社の「理念・ビジョン」に顧客志向が根付いているか
会社のホームページやパンフレットを見て、「お客様第一主義」「顧客満足度No.1」といった言葉が、ただのお題目になっていないかを確認しましょう。具体的な取り組みとして、お客様からのアンケート結果や、「お客様の声」として具体的なエピソードが紹介されているか、などをチェックします。お客様との関係性を大切にしている会社は、その姿勢を積極的にアピールしているはずです。
ポイント2:面接で探る「営業スタイル」と「評価制度」
面接は、あなたが評価される場であると同時に、あなたが会社を見極める場でもあります。勇気を出して、こんな質問をしてみてください。
「御社でご活躍されている営業の方には、どのような共通点や、大切にされている考え方はございますか?」
この質問に対する答えが、「行動力」や「目標達成意欲」といった言葉だけでなく、「傾聴力」「誠実さ」「お客様との信頼関係」といった言葉であれば、その会社は顧客志向が高いと言えるでしょう。
また、評価制度についても、「契約件数だけでなく、お客様満足度アンケートの結果なども評価の対象になりますか?」と聞いてみるのも有効です。何を評価するかが、会社が何を大切にしているかの証明になります。
ポイント3:社員の「雰囲気」と「言葉遣い」に注目する
面接官や、社内で見かける社員の方々の雰囲気を、よく観察してみてください。彼らは、あなたの話を急かしたり、一方的に話したりせず、しっかりと耳を傾けてくれるでしょうか。言葉遣いは丁寧で、相手への敬意が感じられるでしょうか。
社員が面接で見せる態度は、彼らがお客様に見せる態度と、そう大きくは変わらないものです。あなたが「こんな人たちと一緒に働きたいな」と心から思えるかどうか。その直感も、とても大切な判断基準になりますよ。

まとめ:「しつこい」を乗り越え、信頼される不動産営業のプロになるために
今回は、不動産営業の「しつこい」というイメージの真実と、これからの時代に求められる「信頼される営業」のあり方についてお話ししました。最後に、大切なポイントをまとめますね。
- 不動産営業の「しつこい」というイメージは、成果主義のプレッシャーや、古い営業スタイルのなごりから生まれたもので、業界の全てではありません。
- 「しつこい」と「熱心」の決定的な違いは、視点が「自分本位」か「お客様本位」か、という点にあります。
- 信頼される営業になるためには、「傾聴力」「価値ある情報提供力」「距離感のコントロール」「コンサルティング能力」、そして何より「誠実さ」という5つのスキルが不可欠です。
- 転職を成功させる鍵は、会社の理念や評価制度、社員の雰囲気から、「しつこい営業」をさせない顧客志向の会社かどうかをしっかり見抜くことです。
情報が溢れる現代社会において、お客様はもはや「売り込まれる」ことを望んでいません。自分のことを深く理解し、プロの視点から、人生に寄り添った提案をしてくれるパートナーを求めているんです。「しつこい」営業が過去の遺物となり、「信頼」こそが最大の武器となる。そんな新しい時代の不動産営業は、本当にやりがいのある、素晴らしいお仕事だと私は思います。
この記事が、あなたが抱いていた不安を希望に変え、新しい一歩を踏み出すための、ささやかな後押しとなれたなら、これほど嬉しいことはありません。