ドラマの不動産営業は嘘?本当?元営業が語る現実とのギャップと7つの面白さ

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「私に、売れない家はありません!」――。そんな決め台詞が印象的な『家売るオンナ』や、嘘がつけなくなる風が吹く『正直不動産』。こうしたドラマを見て、「不動産営業って、なんだか面白そう!」と、この業界に興味を持たれた方も、たくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

でも、胸を躍らせながらも、心のどこかでこう思っていませんか?「ドラマで描かれている世界って、どこまでが本当で、どこからがフィクションなんだろう…」と。こんにちは。私は以前、大手不動産会社で営業として働き、現在は広報として、たくさんの営業の現場を取材しています。

そんな私の経験から申し上げますと、ドラマの世界は、現実をとても面白く、そして少しだけ大げさに描いたもの。でも、本当の不動産営業の仕事は、ドラマ以上に奥深く、そしてもっともっと面白い、ということなんです。この記事では、ドラマと現実の違いを比較しながら、この仕事の本当の魅力について、丁寧にお話ししていきますね。

この記事でお伝えしたいこと

  • ドラマで描かれがちな不動産営業のイメージと、その背景にある真実
  • 「家売るオンナ」や「正直不動産」に見る、あの名シーンは現実に起こるのか?
  • ドラマでは決して描かれない、不動産営業の地道で、でも面白いリアルな仕事内容
  • 現実の不動産営業だからこそ味わえる、ドラマを超える7つのやりがいと面白さ
  • 理想と現実のギャップに後悔しないための、大切な心構え

ドラマで見る不動産営業のイメージと、ちょっと違う現実

まずは、皆さんがドラマでよく目にするシーンと、現実の不動産営業の姿が、どれくらい違うのか、あるいは似ているのか、比べてみることにしましょう。このギャップを知ることで、業界への理解がぐっと深まるはずですよ。

「私に売れない家はありません!」天才スーパー営業は本当にいるの?

ドラマでは、『家売るオンナ』の三軒家万智のように、どんな難あり物件でも、お客様の心を見抜き、魔法のような方法で次々と売ってしまう、一人の天才的な営業が登場しますよね。「GO!」の一声で、お客様がハンコを押してしまう。あんな風になれたら…と、憧れてしまいます。

【現実の世界では…】
残念ながら、一人で全てを解決する、魔法使いのような天才営業は存在しません。しかし、「あの人に任せれば、必ず最高の家を見つけてくれる」とお客様から絶大な信頼を得ている、「職人」のようなトップセールスは、確かに存在します。

でも、彼らの力は、魔法ではありません。それは、

  • お客様の言葉にならない想いまで汲み取る、深いヒアリング能力
  • 物件の長所も短所も徹底的に調べ上げる、膨大な調査と準備
  • 上司や同僚、他社の営業、弁護士や銀行員といった、多くのプロフェッショナルとの連携(チームプレー)

という、非常に地道で、泥臭い努力の積み重ねの上に成り立っているんです。私が取材したあるトップセールスの方は、こんな風におっしゃっていました。

「三軒家さんみたいに『GO!』で家が売れたら最高ですけどね(笑)。現実は、お客様が納得して『GO!』と言ってくださるまで、何ヶ月も、時には何年も、お客様の人生に寄り添い続ける。それが僕たちの仕事ですよ」

一人の天才のひらめきではなく、チーム全体の総合力と、お客様への誠実さで成果を出す。それが、現実の不動産営業の姿なんです。

「祟りじゃ〜!」はありえない?事故物件のリアルな取り扱い

『正直不動産』では、主人公の永瀬財地が、嘘がつけなくなる風に吹かれて、「この物件は、以前に人が亡くなっているんです!」と、事故物件であることをうっかり口走ってしまう、ドタバタなシーンが描かれますよね。

【現実の世界では…】
現実に、このような「うっかり」は許されません。なぜなら、物件で過去に自殺や殺人事件、あるいは孤独死などがあった場合、それを次の買主様や借主様に伝えることは、宅地建物取引業法で定められた、私たちの「義務」だからです。これを「心理的瑕疵(しんりてきかし)の告知義務」と言います。

ドラマのように、隠そうとしたり、オカルト的な話になったりすることは、まずありません。むしろ、「いつ、どこで、どのような事象があったか」という事実を、契約前に、書面をもって、冷静かつ事務的にご説明するのが、プロの仕事です。この告知を怠ると、後で契約解除や損害賠償といった、非常に大きなトラブルに発展してしまいます。

どこまでの事象を、いつまで告知しなければならないか、という点については、2021年に国土交通省が初めて具体的なガイドラインを策定しました。興味のある方は、ぜひ一度、目を通してみてくださいね。

参照:宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン – 国土交通省

現実の営業は、祟りを恐れるのではなく、法律違反を恐れている、ということなんです。

ライバル会社との、派手な顧客争奪バトル!

ドラマではよく、主人公の会社とライバル会社が、一人の有力なお客様や、一つの優良物件を巡って、火花バチバチの争奪戦を繰り広げますよね。出し抜いたり、出し抜かれたり。そんなスリリングな展開も、ドラマの面白さの一つです。

【現実の世界では…】
もちろん、競争が全くないわけではありません。でも、実は、不動産業界は、ライバルであるはずの他社と「協力」し合う文化が、非常に根付いている業界なんです。

例えば、A社が「家を売りたい」お客様から物件をお預かりし、B社が「家を買いたい」お客様を見つけてきたとします。この時、A社とB社は協力して契約を成立させ、仲介手数料を分け合うんです。これを「共同仲介」と言います。

お客様にとっては、一つの不動産会社に相談するだけで、市場に出ているほとんどの物件を紹介してもらえる、という大きなメリットがあります。私たち営業にとっても、自社だけでは見つけられないお客様を、他社の力を借りて見つけることができる。まさに「Win-Win」の関係なんですね。

ドラマのようなバトルよりも、むしろ、他の会社の営業担当者さんと、普段から良い関係を築き、情報交換を密に行うことの方が、ずっと大切だったりするんですよ。


ドラマでは描かれない、でも、もっと面白い!不動産営業の7つのリアル

ドラマでは、どうしてもお客様との派手なやり取りや、契約の瞬間といった、分かりやすく華やかなシーンが中心に描かれます。でも、現実の不動産営業の面白さは、実は、そうした表舞台には映らない、もっと地道で、奥深い仕事の中にこそ、隠されているんです。ここでは、ドラマではなかなか見られない、7つのリアルな仕事の面白さをご紹介しますね。

1. まるで探偵?物件の過去を紐解く「物件調査」の面白さ

お客様に物件をご紹介する前には、その物件について、徹底的に調査する時間があります。それは、まるで探偵のような、知的な探求のプロセスなんです。

  • 法務局へGO!:その土地や建物が、いつ、誰から誰の手に渡ってきたのかが記録されている「登記簿謄本」を取得し、権利関係を調べます。時には、明治時代の古い登記が出てきて、歴史のロマンを感じることも。
  • 役所へGO!:その土地に、どんな大きさの建物が建てられるのか、という「都市計画法」や「建築基準法」上のルールを確認します。複雑な法律をパズルのように解き明かし、お客様の希望が叶えられるかを見極めるのは、まさに専門家の腕の見せ所です。
  • 現地へGO!:自分の足で、物件の周りを歩き回り、日当たりや風通しはもちろん、スーパーまでの道のり、近隣の騒音、街の雰囲気などを、五感で確かめます。

こうした地道な調査を通じて、一つの物件の「個性」を深く理解し、その情報を基に、お客様に最適な提案を組み立てていく。この謎解きのようなプロセスは、非常に奥深く、面白いんですよ。

2. 銀行員さながら?お客様の人生を設計する「資金計画」のやりがい

家を買うことは、お金の話と切っても切れません。多くのお客様は、住宅ローンを利用されます。私たちの仕事は、ただ家を売るだけでなく、お客様の人生設計そのものに深く関わることでもあるんです。

お客様の年収や家族構成、将来の夢などをじっくりお伺いし、「この銀行の、この金利タイプのローンが、お客様のライフプランに最も合っていますよ」と、ファイナンシャルプランナーのように、最適な資金計画を提案します。時には、少しでも有利な条件を引き出すために、複数の銀行の担当者と、粘り強く交渉することもあります。

自分の提案によって、お客様が安心して、無理なく夢のマイホームを手に入れることができた時。それは、単に家が売れた、という以上の、お客様の人生に貢献できたという、大きな喜びとやりがいを感じる瞬間です。

3. 街のクリエイター?物件の魅力を言葉と写真で伝える「広告」の面白さ

どんなに素晴らしい物件も、その魅力が伝わらなければ、お客様の目に留まることはありません。物件の価値を、言葉と写真で最大限に引き出し、世の中に発信していく。そこには、マーケターやクリエイターのような面白さがあります。

  • カメラマンになる:どの角度から撮れば、部屋が一番広く見えるか。どんな天気や時間帯に撮れば、日当たりの良さが伝わるか。光を読み、構図を考え、何十枚も写真を撮ります。
  • コピーライターになる:「南向きの明るいリビング」というありきたりの言葉ではなく、「朝の光が、家族の『おはよう』を優しく包み込むリビング」というように、お客様の感性に響くキャッチコピーを考え抜きます。

SUUMOやHOME’Sといったポータルサイトに掲載した自分の広告に、たくさんのお問い合わせが入った時の喜びは、格別です。自分のクリエイティビティが、ダイレクトに結果に結びつく。これも、この仕事の大きな醍醐味の一つですね。

4. お客様も知らない「本当の願い」を発見するカウンセリング

ドラマでは、お客様が最初から明確な希望を持っていることが多いですが、現実には、「何となく、良い家があれば…」と、ご自身の本当の希望に気づいていないお客様も、たくさんいらっしゃいます。

私たちの役割は、そうしたお客様との何気ない会話の中から、「お客様が、本当に大切にしている価値観は何か」「どんな暮らしを送ることに、幸せを感じるのか」という、心の奥にある「本当の願い」を、一緒に見つけ出していくことです。

「広い庭が欲しい、とおっしゃっていましたが、それは、お子様とキャッチボールをするためだったんですね」「駅からの距離を気にされていましたが、それよりも、ご夫婦でゆっくり過ごせる静かな環境の方が、お二人にとっては大切なのではないでしょうか」。そんな風に、お客様自身も気づかなかった本質的なニーズを提示できた時、お客様の表情がパッと明るくなります。それは、まるでカウンセラーのような、深いやりがいを感じる瞬間です。

5. 契約書に宿る「責任」の重さと、プロとしての誇り

契約のシーンは、ドラマではハンコを押すだけの、あっさりとした場面として描かれがちです。しかし、現実は、何十ページにも及ぶ「重要事項説明書」や「売買契約書」という、専門用語が並んだ書類の読み合わせに、1時間以上もかけて行われます。

この書類の一つひとつの条文には、お客様の大切な財産を守るための、非常に重い意味が込められています。それを、宅地建物取引士として、正確に、そして分かりやすくご説明する。この瞬間は、不動産のプロフェッショナルとしての知識と責任が、最も問われる、身の引き締まるような時間です。

すべての説明を終え、お客様がすべてに納得して、署名・捺印をされた時。そこに、派手な演出はありません。でも、お客様の人生の重大な局面を、専門家として無事にエスコートできた、という静かで、しかし確かな誇りを感じることができるんです。

6. 引き渡し後の「ありがとう」が、すべての苦労を吹き飛ばす

私たちの仕事は、契約が終われば、それで終わりではありません。本当のゴールは、お客様が新しい家で、幸せな生活をスタートされる、その瞬間です。

リフォームの手配をしたり、お引越しの相談に乗ったり。そして、すべての準備が整い、新しい家の鍵をお客様にお渡しする「引き渡しの日」。そこでいただく、「〇〇さんのおかげで、最高の家に出会えました。本当に、ありがとう」という、心からの感謝の言葉。この一言を聞くために、私たちは、これまでのすべての苦労をしてきたんだ、と実感できます。涙が出るほど嬉しい、最高の瞬間です。

7. 街の見え方が変わる!プロとして成長する喜び

この仕事を続けていると、いつの間にか、普段歩いている街の景色が、全く違って見えてくるようになります。

「あそこの土地、用途地域は何だろう」「このマンション、日当たりは良さそうだけど、前面道路の幅が狭いな」「このエリアは、最近、地価が上がっているな」。そんな風に、自然とプロの目で街を分析している自分に気づくんです。

それは、自分が不動産の専門家として、日々成長している証。昨日まで知らなかった知識が、今日、お客様の役に立つ。その知的好奇心と成長の実感が、この仕事をどこまでも面白くしてくれる、最大のエンジンなのかもしれません。


まとめ:ドラマ以上にエキサイティングな、現実の不動産営業という物語

今回は、ドラマをきっかけに、不動産営業の仕事に興味を持たれた方に向けて、その現実の姿と、ドラマでは描かれない本当の面白さについて、お話しさせていただきました。最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  • ドラマで描かれる天才的な営業は、現実には存在しません。現実は、地道な調査と、多くのプロとのチームワークで成り立っています。
  • 事故物件の告知や、他社との関係性など、ドラマでは面白く脚色されがちな部分も、現実では法律や業界のルールに則った、冷静な協力関係が基本です。
  • 現実の不動産営業の本当の面白さは、ドラマには描かれない「探偵」のような調査、「コンサルタント」のような資金計画、「クリエイター」のような広告活動といった、地道で奥深い仕事の中に隠されています。
  • お客様の人生に深く寄り添い、その最高の瞬間に立ち会える喜びや、プロとして成長していく実感は、どんなドラマよりもエキサイティングで、感動的なやりがいを与えてくれます。

ドラマは、不動産営業という世界の、ほんの入り口を見せてくれる、素敵なきっかけです。もしあなたが、そのきらびやかな世界の奥に広がる、もっとリアルで、もっと奥深い物語に興味を持たれたのなら。ぜひ、その扉を開けてみてください。

そこには、あなたの知らない、もっと面白くて、もっとあなたを成長させてくれる、新しい人生のステージが待っているかもしれませんよ。